まさかの坂は・・・
2009年08月21日
今年も例年のとおり、お盆休みに実家の奈良に戻り、両親と会ってきました。といっても現在両親は、妹の住まいの近くの介護つき老人ホームの入居しております。2年前までは想像もできなかったことです。
それは2年前の9月30日の午前5時ごろに私の携帯電話にかかってきたことに始まりました。電話の相手は予想もしていない叔父からでした。想像もしていない人から想像を絶する言葉を聞くことになります。「兄さんが脳梗塞で倒れた。」実は、両親はこの二日前の9月の28日に叔父夫婦と一緒に、世界遺産になっている中国の黄山に観光旅行に出かけていました。聞けば、標高2000メートルを越える山から黄山の景色を見学している最中にまず口が利けなくなり徐々に左半身の麻痺が出てきて病院に搬送されたときには意識がなくなっていたとの事です。危篤との事でしたので私一人午前中の便で最寄の空港である杭州に渡りました。そこからあらかじめ用意してもらった車で4時間かけて黄山の父の入院している病院に夕方到着しました。到着時には母親はパニックになっていていわゆる錯乱状態でしたし、中国人医師の説明も理解できないし、通訳の人の話では絶対安静で1ヶ月は動かせないとの事、それこそ何から手を付けて良いか途方にくれました。大体、通訳と言っても日本語は片言が理解できる程度の中国人ですから医学的な会話を通訳なんてできません。医師が言っている話なのかそのガイドが感じている話なのかさっぱり理解できませんでした。
結論から申し上げますと、私が黄山に着いてから38時間後、父を大阪の大学病院に救急搬送し私自身も丸二日間の滞在で日本に帰国しました。しかしながら父には重い後遺症が出ており、現在では車椅子生活を余儀なくされ、さらに高次機能障害で意識レベルも決して高くありません。母は一時の錯乱状態から脱したものの認知症を発症しており介護なしの生活は困難な状態になりました。「政治にはまさかの坂がある」という言葉が流行したことがありますが、政治だけではなく我々の生活の中でも突然、本当に突如として障害が現れることがあるものです。そして私はこの2年前の一連の出来事で未だに後悔していることがあります。そして父や母の顔を見るに付けその後悔が蘇ってきます。それは何か、と言いますと「もっと迅速に対応していたら父の容態はこれほど悪くならなかったのではないか」という一点です。
皆さん、インターナショナルSOSと言う会社をご存知ですか?世界中にネットワークを持っており辺鄙な場所で救急患者が発生した場合、医療技術が進んでいない地域から医療技術の進んでいる国や都市に医療設備が整っていて医師・看護師が同乗するプライベートジェット機で患者を救急搬送する会社です。私は今回の事件が起こるまでその存在自体知りませんでした。
時間経過で説明します。父が発症したのが9月29日の午後2時頃、症状が悪化し下山後黄山市内の病院に入院したのが午後10時、私に一報が入ったのが翌30日の午前5時、私が黄山に到着したのが午後4時、加入していた海外旅行傷害保険会社の担当とやり取りをしている中で救急搬送する会社の存在を知ったのが翌1日の午前6時でした。ここで既に24時間のロスがあります。即手配を依頼し日本での受け入れ病院と飛行機の手配が完了したのが午後6時、翌2日の午前6時に救急搬送が開始され大阪到着は午前11時、昼過ぎには大学病院に到着しました。
もし、最初の症状が出た段階で救急搬送の手配が取れたらと考えてしまうのです。今回の場合保険会社に依頼してから搬送が完了するのに約30時間かかっています。聞く所によると脳梗塞を発症してから遅くとも6時間以内に治療にかからないと予後は芳しくないと言います。その意味ではどっちにしろ早い時期に高度な治療を受けることは難しかったのかもしれません。しかし、そんな話は患者の家族には受け入れられるものではありません。もしも私にもう少し知識があり万一のときの対応を心得ていれば少なくとも搬送時期を大幅に縮められたのではないか、そしてそれが父の予後に影響を及ぼしていたのではないかと言う悔いが残ったままなのです。ちなみに大阪の大学病院に引き継がれた中国での病院のカルテには日本で脳梗塞発症時の患者に施される治療の記載はなかったそうです。
皆さん、どこに「まさか」が起こるかわかりません。海外旅行に行くときに何気なく加入している「海外旅行傷害保険」、これは何があっても加入しましょう。そして「もしも」が起こったら医療技術が劣る国での出来事なら躊躇なく救急搬送の手配をとってください。(因みに今回の救急搬送でかかった費用は六百数十万円でした。すべて保険で賄う事ができました。)もし年老いた両親が旅行する場合には保険証券のコピーを持っておき遠隔地からでも保険会社に手配できる準備をしておきましょう。そして携帯電話は必ず持たせましょう。それが、かけがえのない家族の命を救うことに繋がるかもしれませんから。