狡兎死して走狗煮らる
2016年12月01日
韓国の朴大統領が大統領の任期満了を待たずして辞任をするという報道がありました。正確には自身の進退を国会に委ねるというもので、野党は単なる時間の引き延ばしだ、等と反発を強めています。聞くところによると韓国の大統領は健康状態に問題がある場合を除いて辞任することができず、それをするためには憲法を改正しなくてはならないと言うことです。それなら、健康に不安があるということで辞任すればいいように思うのですがことは簡単ではないようです。韓国の法律を全く知らない私が言うことではありません
が。ただ、このような辞任問題まで発展した大統領のスキャンダルの原因は、大統領自身が職権を乱用したというよりも大統領の個人的な取り巻きが起こした不祥事です。このような事態はどんな組織であれそこに権力が存在する限り起こり得るのです。メディアの使命としてよく言及される「権力は常に腐敗する」というのはベクトルとしては決して間違いではないと思います。
題名の「狡兎死して走狗煮らる」は中国の春秋戦国時代に活躍した范蠡(はんれい)が元同僚にあてた手紙に書かれていた一文です。范蠡は春秋時代、覇王の一人になった越王勾践に仕えた名軍師です。この人物は実に優秀で「呉越同舟」で有名な当時ライバル関係にあった呉の国に范蠡の諌言を聞かず一旦敗戦をした越王勾践を日になり陰となって支え、紆余曲折の末、彼の適切な助言により最終的に呉の国を滅亡させます。(越王勾践と呉王夫差、越の范蠡と呉の伍子胥の話は色々なエピソードがあり重要な教訓を教えてくれます。)それほどの手柄を立てながら彼は覇王となった越王から引退を申し出、聞き入れられないと越国から逃亡するのです。(この行動が後に、范蠡が「明哲保身」の賢人とされる所以となります。)その逃亡先から同じく越を支えた同僚に手紙を送るのですがその中に書かれていた故事がこの題名です。「ウサギを取るために飼った犬は、ウサギがいなくなると必要なくなり煮て食べられてしまいますよ。越王は苦楽を共にできても安楽は共にできません。どうしてあなたは引退しないのですか。」という意味の手紙です。范蠡の忠告を聞き入れなかった同僚は結局謀反の罪を着せられ越王に殺されてしまいます。
権力を手中に収めるまで人の意見を取り入れて謙虚だった人が、一旦権力を手中に収めると、部下や周りの取り巻きの諌言に耳を貸さなくなるというのをよく耳にします。誰でも自分の欠点を堂々と聞かされるのは決して気持ちの良いものではありません。唯、目上の人の言うことや今目の前に危機が迫っているときには必要な助言は聞き入れるのはそれほど難しくありません。しかし、目上の人がいなくなり危機が無くなったか、無くなったと感じた時、それでも諌言に耳を貸せるかというとそれは非常に難しいのかもしれません。結果、周りは耳に聞こえの良い話ばかりをする取り巻きしか存在せず自分、そして取り巻き、どちらも腐敗が始まっていくのでしょう。
菜根譚の一節です。
耳中、常に耳に逆らうの言を聞き、心中、常に心に払(もと)るの事ありて、はじめて是れ徳に進みて行いを修むるの砥石(といし)なり。
若(も)し言々耳を悦ばし、事々心に快(こころよ)ければ、便(すなわち)この生を把(と)りて鴆毒(ちんどく)の中に埋めん。
これができてこそリーダーなのですよね。難しい事ですが。